中世から現代まで。人々と瓦の営みをたどる。
鬼みち➁ ―高浜市やきものの里 かわら美術館から馬頭観音―
名鉄「高浜港駅」から「三河高浜港駅」をつなぐ約5km、2時間のウォーキングコース「鬼みち」。
道中は、屋根の上はもちろん、モニュメントや道の片隅など、
「瓦の町」ということを肌で感じられる風景が広がっています。
前回は「高浜港駅」から「高浜市やきものの里 かわら美術館」へ歩を進めました。
今回は「高浜市やきものの里 かわら美術館」から「馬頭観音」へ続く約1.5kmの道をたどります。
まず現れるのは、「高浜やきものの里 かわら美術館」に隣接する「森前公園」。
瓦を波模様で敷き詰めた「瓦庭」が広がっています。
さらに、地元の陶芸作家による「水の生き物」をモチーフにしたモニュメントも。
チンアナゴやカニ、タツノオトシゴなどキュートな生き物が並ぶ中で龍は大迫力!
水の神様の気迫といったところでしょうか。
ところで、どうして海や水がモチーフになっているのでしょうか。
その理由は、この地の歴史にありました。
公園のある場所は、かつて「森前の渡し」という渡船場があったのです。
1956年(昭和31)に衣浦大橋が開通するまで対岸の亀崎へ船での往来が行われていました。
公園内には渡船場の石碑も立っています。
森前公園の横には、赤い煙突のそびえる「サロン赤窯」が。
「サロン赤窯」には、高浜市指定有形民族文化財「塩焼瓦窯」が設置されています。
「塩焼瓦窯」とは、焼成の途中で高温の窯の中に食塩を入れて、赤褐色に発色させる瓦のこと。
1953年(昭和28)には生産量もいぶし瓦をしのぐほどの量が生産されましたが、
排ガスによる公害が発生したために現在は廃盤となっています。
「サロン赤窯」は無料で立ち寄れますので、見学してみてはいかがでしょうか。
「森前公園」から見える「衣浦観音」も外せないスポットです。
観音寺境内にある高さ8mの陶管焼の観音像は日本一の大きさ。
この観音像は、高浜の鬼板師で「鬼長」の屋号を持つ浅井長之助氏の製作で、焼成したのは陶管の窯元・森五郎作氏です。
少し進んだ「塩前寺」は、不動明王を祀る「高浜不動」の別名を持つお寺。
本堂の屋根には、考え事をしているかのような烏天狗の留蓋飾りが設置されています。
その先にある浜三ヶ寺のひとつの「恩任寺」は、1481年(文明13)に建てられた古刹で、
本瓦葺き屋根の山門が目を引きます。
そして、恩任寺の門前にある「敷瓦の小径」は、細い路地に瓦を敷き、
モザイクアートのような模様や家紋を映し出したゾーン。
ひっそりとした路地すらも「瓦スポット」になっているなんて、
三州地域にとってどれだけ瓦が重要なものかがわかります。
続いて見学したいのは「蓮乗院」。
こちらも見応えのある飾り瓦が特長的なお寺で、
天女、仙人、玄武、竜宮城など様々な瓦が屋根を飾り立てます。
寺町を抜けると「双体道祖神」が旅人を待ち構えます。
道祖神とは、悪霊や疫病の侵入を防ぐ村の守り神のこと。
「双体道祖神」は高浜市の指定有形文化財に登録されています。
かつて高浜の地を行き来した旅人たちのことを見守ってきたのでしょう。
そして「双体道祖神」の正面に見えるのが「馬頭観音」です。
かつて瓦の運搬を担っていた馬への感謝を示し、
1916年(大正5)に建立されました。
「高浜やきものの里 かわら美術館」から「馬頭観音」まで。
この地における瓦産業を、時代の変化とともに感じることができる道のりです。
現代的なモニュメントから物流が発達していなかった時代の願掛けまで。
瓦はこの地の人々にとってなくてはならないものであり続けているのです。