時の流れを愛おしく感じさせる、白い瓦を敷き詰めた大きな三角屋根。

mizuiro architects×丘の上の木の下のSHIZUKU CAFE

2021年1月30日に青森県藤崎町に誕生した「丘の上の木の下のSHIZUKU CAFE」。

店名の通り丘の上に建つ店舗へは、ゆっくりと上る丘の傾斜がアプローチになります。

りんご畑が広がるのどかな風景の中で、町の新たなシンボルとなっている真っ白い壁と真っ白の大きな三角屋根。

設計を担当したのは、創業から60年以上の時を刻む青森県の設計事務所「mizuiro architects」です。

創業者である祖父が立ち上げた建設会社を祖業とし、3代目にあたる葛西さん兄弟が

それぞれの専門分野を生かし、建築、インテリア、家具などに関する企画、設計監理を行っています。

 

今回「SHIZUKU CAFE」の設計を担当した一級建築士の葛西瑞都さんと、

カフェの店主・佐野さんに、瓦を取り入れた経緯やその魅力についてうかがいました。

「SHIZUKU CAFE」がある場所は、周囲に茅葺き屋根の家も残る青森県藤崎町。

りんご「ふじ」の名産地として知られる町でもあり、りんご園をはじめ様々な農作物を栽培する農地に囲まれ、

ゆったりとした優しい時間が流れています。

 

店舗兼住居として、この地にお目見えした建物の施主である佐野さんは、

「mizuiro architects」の葛西さんとの衝撃的な出会いについて語ってくださいました。

「実は当初、別の設計事務所に依頼する予定だったのですが、

『mizuiro architects』の施工例をたまたま目にする機会があり、

気になってHPで調べてみたんです。

すると、想像以上に素敵な施工例がたくさん載っていて、居ても立ってもいられずアポイントを取り、

一度、葛西さんとお会いすることに。

大きな屋根の建物にしたいという思いを伝えたところ、葛西さんが即興で描いてくださったデッサンに心が震えました。

夫婦で涙があふれるほど感動して、葛西さんにおまかせすることに決めました」

 

設計を担当した葛西さんによると、敷地の近くには河川があり、2mの高さまで浸水のおそれがある浸水想定区域。

水害を想定して壁で囲むという案も考えられましたが、周囲の景観との調和を優先することに主眼を置いた結果、

大量の盛り土によって高さ2mの人工の丘を造るプランを提案したそうです。

「丘の表面にはクローバーを敷き詰めて、てくてくと丘を歩いて店の扉に着く。

その時間も物語になると思ったんです。

佐野さんが思い描いた大きな三角屋根とこの丘の傾斜がレイヤーになって一体感を生むような風景にしました」

 

春には、丘の周りで可憐な花々が揺れ、夏には斜面を彩る青々としたクローバーが、

真っ白い屋根を浮き立たせるように美しいコントラストを演出。

秋には赤や黄に色づいた葉が、キャンバスのような白い屋根に広がり、まるでアートのよう。

冬になると雪がしんしんと降り積もり、白銀の丘と建物が一体になります。

「四季の移ろいを鮮明に映し出したり、自然の色合いに溶け込んだり。

季節ごとにいろいろな表情を見せてくれます」と話す佐野さん。

この設計を実現するための核として、欠かすことのできない存在となったのが白い瓦でした。

葛西さんによると「この設計には白い屋根が必須条件でした。

実はこれまで担当した建物で、瓦を使ったことはなかったんです。

瓦といえば波打っている形状で、和風なら黒やグレー、洋風なら赤茶色というイメージが強かったから。

でも、普段採用している新建材では表現できない質感、重厚感を求めて模索していた時、三州瓦にたどり着いたんです」。

イメージする瓦を探し、ウェブサイトを片っ端から調べる葛西さんの目に留まったのが、三州瓦の老舗「鶴弥」でした。

従来の古典的な瓦のみならず、現代の建築デザインにもフィットするフラットな形などその多様性に惹かれたとか。

「メーカーの方に問い合わせをすると、フラットタイプのラインナップの中には白い瓦がなかったんです。

でも相談する中で、特別にフラットで白い瓦を造っていただけることになって。

白い瓦用にレーンを一つ確保していただくなど親身になってご対応いただき、本当にありがたかったです。

おかげ様で、オリジナリティのある新しい風景がつくり出せたのではないかなとうれしく思っています」

「中庭に植えられたケヤキの木が、私たちや店の成長と共に、これからすくすくと育っていくのも楽しみ」と話す佐野さん。

「この木が屋根の高さを超えるようになれば、陽光を受けた白い屋根がレフ板のようにケヤキの木を照らし、

下から樹を見上げる人にとってより一層美しい風景を織りなしてくれるでしょう」と葛西さん。

住まい手である佐野さんは、日々の暮らしの中で瓦の機能性も実感しているとか。

「夏は涼しく、エアコンの使用頻度が減ったような気がします」と粘土瓦特有の断熱性・保温性の高さを指摘。

「もう一つ驚いたのが防音性能の高さです。屋根を激しくたたくような雨が降っていても、

建物の中にいるとほとんど気にならない。瓦が音を吸収してくれるんですね。

また、青森では瓦屋根が少ないので、雪国では瓦は使ってはいけない建材だとばかり思っていました。

でも実際に暮らしてみると防音性能や、冬は暖かく夏は涼しいという温度調節機能、

メンテナンスがいらない点などメリットばかり。

近隣では、多くの方が何年かに一度屋根の塗装をする姿をしばしば見かけます。

これをきっかけに、屋根の選択として瓦がもっと広まったらいいな、と感じました」と佐野さん。

瓦を採用するにあたり、実際に三州へ足を運び、工場を見学したという葛西さん。

「地域全体が焼き物の町として、しっかりと地場産業を守り継いでいるという印象を受けました。

技術の面でも切磋琢磨している雰囲気が伝わってきましたし、

地域の文化として瓦産業が息づいている様子を肌で感じることができ、貴重な経験になりました」

瓦の魅力について「古風な建材というイメージが根強い瓦ですが、機能性に加えて、形状や色、質感など、デザイン面でも

バリエーションが豊富なことはあまり知られていません。

自由度の高い建材であるということが、私たちのように設計に従事するプロの間にももっと広まれば、

日本の建物の幅が広まり、建築の新たな可能性につながるのではないでしょうか」と話す葛西さん。

三州から遠く離れた北の地でも、今後ますます三州瓦が愛され、発展していくことに期待が高まります。

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