三州瓦を支える人たち Vol.14(株式会社丸長)
先端のテクノロジーに基づいた技術と匠の感覚を融合し、三州瓦ブランドを支える。
粘土採掘業を祖業とし、1960(昭和35)年から配合粘土を製造する製土業として創業した「丸長」。
以来、瓦用の粘土一筋の姿勢を貫いています。
瓦用の原料粘土は大きく分けて山土、地土、水簸の3種類です。
かつて三州瓦では地土のみを使用していましたが、年々多様化する瓦へのニーズや瓦メーカーの要望に合わせて、
特徴の異なる土を扱うようになりました。
主に豊田、日進、瀬戸一帯までを含むエリアで採掘する山土は、焼結性に優れているのが特徴。
高温で焼いた時に焼き縮む収縮率が高いことから製品が硬くなり、強度が高まります。
高浜市や安城市近辺で産出される地土は元来、三州瓦の唯一の原料粘土として重用されていたという歴史からもわかる通り、
最も瓦作りに適した粘土です。
また水簸は、豊富な産出量と安定性に優れています。
今やその品質の高さや安定供給など、多くの瓦メーカーから絶大なる信頼を集める「丸長」ですが、
現在の地位を確立するまでには、モノづくりと向き合う情熱と誠意が可能にした、弛まぬ創意工夫の連続があったのです。
専務の古井信次さんは
「納入先の瓦メーカーさんから、品質異常や不良品に関する注意を受けた過去の経験が今につながっています。
一つひとつの指摘を真摯に受け止め、その都度、緻密に丁寧に再発防止策を講じるという試行錯誤の繰り返し。
お叱りを受けることもありましたが、取引先である瓦メーカーが一蓮托生という思いで、
長期的な視点に立って見守ってくださったおかげで今の丸長がある。感謝の気持ちでいっぱいです」と
業界に育てられてきた思いを語ります。
「丸長」が積み重ねてきたノウハウを象徴するのが、製品の精度を検査する試験室。
この試験室を中心に、どんなに小さなクレームであっても、2度と同じ過ちを繰り返さないという強い意志のもと、
緻密に計算された試験内容を蓄積してきました。
また、資金や設備を投入している先端の検査に加えて重視しているのが、熟練の職人らの経験値と感覚です。
原料粘土が試験室に持ち込まれる前段階として、
採掘担当者が実際に採掘現場に足を運び、手で触れ、目で見て粘土の質をジャッジ。
人の感覚によって判断した原料の善し悪しが実際に理に適っているかどうかを、
試験部門が測定値と照合して判断するというWチェックを実施。
機械、人の感覚を融合することで、それぞれの精度を高めています。
さらに、粘土の質を大きく左右する水分率の安定性にも注力。
粘土の水分率は0.1%、0.2%という微細な差異により、瓦の成形、乾燥、焼成などあらゆる工程に影響を及ぼします。
そのため試験室では、蓄積されたデータから独自の配合レシピを弾き出していますが、
水分計での測定に加えて、ベテランのスタッフがコンベア上を流れる粘土をチェック。
その形や様子から、水分率の微妙なずれを感知するという二重、三重の厳しい工程で粘土の声に耳を傾けます。
「天然資源である粘土は、採掘する場所や深さはもちろんのこと、
ほんの少しの環境の変化や時間の経過によって刻々と性質が変わる、いわば“生き物”のようなもの。
採掘部門、試験部門から、製造、配達にいたるまで、一丸となって高みを目指し、改善の手を止めないことを心がけ、
瓦メーカーさんが安心して瓦作りができるように努めています」と話す古井専務。
これからも、永続的に配合粘土の品質をキープしていきたいという力強い言葉から、品質への自信をうかがい知ることができます。
三州瓦の優位性について訊ねると、「粘土の埋蔵量の多さ」との答えが返ってきました。
「瀬戸焼や常滑焼など、焼き物の産地が集まるエリアであるということが実証する通り、
他の産地にはない埋蔵粘土の豊富さが大きなアドバンテージになっています」と話す古井専務。
比類なき地の利と、その財産を大切に活用し、受け継いできた先人らの技術の結晶が、今の三州瓦へとつながっているのです。
「瓦屋根の魅力は、焼き物ならではの風情、趣。日本料理は、プラスチックや金属の器より、
陶器の方がおいしそうに見えるのと同じで、日本の暮らしには陶器が似合いますね」と微笑む古井専務。
「もちろん、天然資源を扱うからこその苦労や難しさはありますが、
三州瓦という日本を代表する素晴らしい地元産業を支えているという誇りを胸に、三州瓦のブランド力を守っていきたい」。
古井専務曰く「あくまでも最終製品は瓦であって、配合粘土自体は、一般の方の目に触れることのない製品です。
でも、縁の下の力持ちとして日本の伝統的な文化を守り、受け継いでいるという自負があります」とのこと。
今後は、スタッフ一人ひとりが自分の子どもや家族に対して、配合粘土製造という仕事について誇りを持って語り継げるように。
そして、若い世代が憧れるような職場となるように、力を尽くしていきたいと言葉を継いだ古井専務。
新旧の技術と人の感性を調和させながら、未来へ向けて瓦文化のたすきをつないでいます。