三州瓦を支える人たち vol.5(鶴弥)

vol.5

川上から川下まで、瓦を熟知した担い手の育成で業界を牽引する

全国の粘土瓦全体の約30%のシェアを有し、業界最大規模の生産能力を誇る株式会社鶴弥。取扱品目約2,200種以上、約25色のカラーバリエーションなど、幅広い製品をラインナップしている粘土瓦業界のリーディングカンパニーです。

同社の瓦製造の歴史は、1887(明治20)年まで遡ります。信州で瓦製造技術を学んだ鶴見清冶郎が刈谷市にて個人創業。以後、同社は130年以上にわたり、瓦作り一筋に歴史を積み重ねてきました。

三州瓦の発展と歩を合わすように、時を刻んできた「鶴弥」。粘土瓦業界をリードしてきた三州瓦の歩みについて、社長の鶴見哲さんが振り返ってくださいました。

「三州瓦が発展した背景には、優良な粘土の産地である事に加え、ものづくりが盛んなこの地域の地の利が大きく影響したのではないでしょうか。自動車産業を中心に工業が盛んだったため、全国各地から運搬用のトラックが集まり、空になった帰り便の荷台に製品を載せて全国へと出荷することができました。

また、瀬戸や常滑、多治見といった古くからの焼き物の生産地に加え、ノリタケ、INAXなどの企業が集積していたため窯業が盛んであり、瓦の製造に必要な原材料や設備を担う業者に困ることはなかったようです。そういったさまざまな好条件が重なり、粘土瓦の一大産地として栄えるようになったのだと思います」。

今や、鶴弥を象徴し、大きなターニングポイントとなった製品といえば、防災瓦です。

1990年代、台風や震災など、度重なる自然災害による住宅被害を受け、住まいづくりに対する変革が求められる中、鶴弥では、業界に先駆けて防災瓦の開発、製造に着手。前例のない挑戦は失敗の連続だったそうです。

「例えば、焼成する際の瓦の並べ方。高い耐風、耐震性能を実現するために、瓦と瓦が噛み合うように『ハイパーアーム』と呼ばれる特殊なフックを付け、台車の上で自立するように新しい焼成方法に挑戦したのですが、このフックが窯の中で欠けたり、瓦が曲がって倒れたりしてしまう。そこで、瓦の形状を改良して窯の中で安定して焼成できるように、試行錯誤を繰り返しました。また、乾燥段階での変形にも苦慮。考案から試作を繰り返し、およそ2年がかりで、『防災F形瓦スーパートライ110 TYPEⅠ』が完成しました。『自立焼成』が実現できたことで、高い品質と防災性能に加え、高い生産性の獲得にもつながりました」。

以後、フルフラット形の「防災F形瓦スーパートライ110 smart」、緩勾配かんこうばい対応の「防災F形瓦スーパートライ110 TYPEⅠ Plus」などをリリース。“瓦は自然災害の際に被害を受けやすい”という誤ったイメージを払拭し、自然災害に強い粘土瓦の普及、拡大を牽引しています。

防災瓦の中でも、現在の主力製品となっているのが「防災F形瓦スーパートライ110 smart」です。「防災F形瓦スーパートライ110 TYPEⅠ」で実現した耐風、耐震性能を継承しつつ、新たに様々な工夫を追加することで、防水性能を向上。緩勾配へのニーズ、片流れ屋根のニーズに応えるため、2.5寸勾配屋根まで対応可能な製品を生み出し、かつ対応流れ長さの拡大も可能にしました。

さらに施工性を高めることで、施工現場の省力化や安全性の向上、廃材量の削減といった付加価値をプラス。施工いただく職人の方々の働く環境改善に貢献するなど、業界全体に好影響をもたらしています。

粘土瓦の魅力について、鶴見社長は「粘土瓦は、防水性能、耐風性能、耐震性能、耐久性、断熱性など、他の屋根材にはない機能面での優位性があります。また、圧倒的な存在感で格調高さを演出できるという点も、伝統的な瓦文化ならではですね」と語ります。

陶器特有の重厚感と温もり。さらには本物の自然素材にしか醸し出すことのできない味わい深さ。一つとして同じ仕上がりのない表情の豊かさを、もっと身近に感じてほしいという思いから、陶板の壁材も誕生しました。

陶板壁材スーパートライWall」は、粘土瓦と同じ原材料・製法で作られていることから、塗装による着色とは異なり、耐久性が高く、色落ちや劣化が起きにくいという瓦の利点を、壁材として最大限に生かしています。

さらに、同シリーズの可視光対応 光触媒シリーズは、可視光・暗視野対応の抗菌性光触媒で、昼でも夜でも抗菌・抗ウイルス効果を発揮。夜間の暗闇でも、光触媒に含む抗菌金属の働きで、抗菌・抗ウイルス効果を持続します。

瓦文化を支える思いについて鶴見社長は「瓦自体が完成して出荷する段階では、まだ製品として途中段階。瓦は、屋根に施工されて初めて完成する製品だと思っています」と語ります。

「粘土瓦の製造だけではなく、最終形である屋根の上での施工までを熟知してほしい」と、瓦の生産を担当するスタッフにも施工の経験を積ませたり、出荷を担当させたりと、部門を横断して多能工化を図っている同社。

「設備や製造、出荷や施工など、あらゆる角度から見て、真に良い製品について多角的に考えられる人材を育成することで、瓦文化を守っていきたい」と、日本が誇るべき文化の継承を誓ってくださいました。

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