そばへかける大将の愛情が伝わる、端正なる手打ちそば。

そば処 歳一六(そば)

細い路地が入り組む高浜市の住宅街の一角。ひと際目を引く情緒ある和風門の奥に佇む一軒家が、知る人ぞ知るそばの名店「歳一六」です。大将とそばの出会いは、公務員として市役所に勤務していた頃。同僚の誘いで初めてそば打ちを体験し、「進むべき道はこれだ」と直感したそうです。

仕事を続けながら、休日には趣味のそば打ちに没頭。定年退職後は、そば職人のもとで日々修業に励みました。学べば学ぶ程そばの奥深さに引き込まれていき、12年前に生まれ育った高浜市で自身の店をオープン。61歳という当時の年齢になぞらえて店名を決めました。

全国のそばの実を吟味した末、「歳一六」では栃木県益子産のそばの実を使用。甘味があり、香り豊かなそばの実を石臼で挽いて自家製粉しています。定番のざるそば用そば粉は、細かい粒子状に挽くことで水分を含みやすく、滑らかでしっとりとした粉質に仕上げ、そば粉9割対つなぎ1割で調合します。

その日その瞬間の気温や湿度など、さまざまな環境に合わせて、職人ならではの感覚と経験を頼りにそば粉に水を加え、混ぜ合わせていく大将。「水回しこそ、そば打ちの肝」と語る通り、指先に神経を集中させながら水回しをする様子は、まるでそばと対話をしているようです。

練りを加えた生地を手延し(てのし)した後、綿棒で延ばし、最終的には1.2mmの厚さまで薄く延ばします。喉越しの良さを意識し、細めに切る九一の「ざるそば」(750円)と、そばの実を粗く挽いて太めに切ることで、食べ応えや噛み応えを堪能できる「十割そば」(950円)。それぞれの個性を存分に味わえるよう、あらゆる工程に心血を注ぎます。

一番人気の「お昼膳」(1700円)は、蕎麦にサラダ、蕎麦どうふ、生麩、天ぷらにデザートが付く贅沢な内容です。「蕎麦は足が早く、5分で味が落ちる」という思いから、提供してすぐに食べられるようにと、お客様にタイミングを確認してから茹でるという細やかな配慮も。

十割蕎麦とくず粉で作った蕎麦どうふや、そばの実をトッピングしたデザートのアイス、茹で汁ではなく、十割そば用のそば粉を溶かした濃厚なそば湯など、味わい、香り、食感などそばの魅力が詰まった心尽くしの品々。店主がそばへ注ぐ愛情が伝わります。

 

「オープンしてから12年間、毎日楽しくて、こんなに楽しい第二の人生があったんだ」と語る大将は、「これからも、職人として技に磨きをかけ、高いクオリティの料理を届け続けたい」とそばへかける情熱が冷めることはありません。そばともお客様とも真摯に向き合い、一切の妥協も許さないその実直な姿勢が「旨いそばが食べたくなったらこの店」と客人の心をつかみ、そば好きをも唸らせる所以のようです。

 

 

 

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