鋳物にかける誇りと伝統を結集した、調理器具「おもいの」シリーズ

石川鋳造(omoiのフライパン)

1938(昭和13)年、碧南市で創業した鋳物メーカーの「石川鋳造」。鋳造とは、溶かした金属を型に流し込み、冷やして固めることで成型する加工技術のことであり、成型された製品のことを鋳物といいます。

「石川鋳造」の鋳物製品は、繊維織機部品をはじめ、自動車部品、水道部品、重機やロボットといった工業製品など多種多様な分野で重用されており、産業界の発展を支え続けています。さらにアルミ用鋳鉄やアルミ溶解用鋳鉄ルツボ、工業用炉蓋など産業の技術革新に合わせ、ニーズに応じた自家製品の開発にも積極的に取り組んできました。

4代目の代表取締役である石川鋼逸さんによると「矢作川下流に位置するこの辺りは、鋳造用の砂型造りに適した良質な砂が豊富に手に入ったことから、鋳造業が盛んになったと言われています」とのこと。時代を経た今もなお、鋳物造りは碧南を代表する産業の一つとして脈々と受け継がれています。

一見、型に流し込んで固めるだけというシンプルな技術のように捉えられがちな鋳造ですが、複雑な形状にも対応できる技術力、寸分の狂いもない精度の高さ、強度など、製品ごとの特性に合わせた高度な技術を要します。

80年以上にわたる歴史の中で、日々研鑽を積み重ね、技術や知識を培ってきた「石川鋳造」。そのノウハウを生かし、鋳物の魅力をより多くの人に伝え、暮らしの中でも身近に感じてほしいとの思いから、新たなオリジナル製品について思案を続けていました。

幾多の企画の中から新製品の有力候補となったのが、家庭での使用頻度も高いフライパンでした。熱伝導率の高さ、優れた蓄熱性といった鋳物ならではの特性は、おいしい料理作りに欠かせない条件です。さらに一般家庭でも親しんでもらえるように、お肉をおいしく焼くことに特化したフライパンであれば、鋳物が有する価値を広く知ってもらえるのではないか…。その発想を機に、フライパンの製品化へ向けた取り組みが始まります。

しかし完成への道のりは、想像以上に険しいものだったそうです。先行する有名メーカーのフライパンとの差別化を図るため、鋳物特有の熱伝導性や蓄熱性の良さを最大限に生かしたい。しかし調理器具として使うためには、鋳物の重さが最大のデメリットになってしまう。鋳物の重さとどう向き合うかと模索した結果、導き出した答えは「その重さこそがメリットであるということをしっかり打ち出し、伝えていくという方向に頭を切り替えました」と石川社長。“重さこそがおいしさにつながる”という信念の下、軽量化路線に走るのではなく、重さ・厚さはそのままでありながら、手にした時のフィット感、バランスをとことん追求しました。取っ手の太さ、長さ、取り付け部の角度、本体との重さ関係などあらゆる箇所の設計を1mm単位で調整。持ちやすさやデザイン性のみならず、持ち手が熱くならないように取っ手を穴の空いたフォルムにするなど、趣向を凝らしました。設計、検証、試作を重ねた結果、重さを気にせずに調理を楽しめる理想の形にたどり着いたのです。

さらに、食にまつわる製品である以上、安心・安全は最優先事項であると考え、無塗装による仕上げに。塗装や加工を加えていないため、表面に残る微細な凹凸が肉の余分な油を吸い、ジューシーな焼き上がりを実現しています。

1500℃で溶かした鉄を、創業時から受け継ぐ昔ながらの砂型に丁寧に流し込み、型を取ります。熟練の職人技によって一つひとつ細やかな削りを加え、重さ、バランスを調整しながら緻密に表面を仕上げていく。手間と時間をかけ、丹精して作り上げるフライパンは、正に“思い”がいっぱい詰まった“重い”フライパンなのです。

構想10年、試作を繰り返すこと3年。利便性を追求した工業製品のフライパンとは一線を画した、職人の手仕事と熱意を結集した“工芸品”としてのフライパンは、“8秒に1枚は売れる”という大ヒット商品として話題を呼んでいます。

また「お肉がおいしく焼けるフライパン」で、とっておきのお肉を焼き、至極の瞬間を味わってほしいと「お肉のサブスク(定期便)」をスタート。今後はそのお肉に合わせる「ワインのサブスク」も開始予定とのことです。

さらに「地元の三河エリアに伝わる、素晴らしい食文化を広めたい」との思いから、地元産の白醤油やみりん、酒、食品などを扱うアンテナショップをはじめ、料理教室などを開催できるキッチンスペースの開設も企画中。「食を通じて地域の魅力を発信し、郷土の活性化につながれば」。石川社長のチャレンジは続きます。

 

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