三州瓦を支える人たち vol.9(創嘉瓦工業)

土から生まれ、土に還る。究極のエコ建材「いぶし瓦」で日本の美観を守る

1948(昭和23)年創業、4代にわたり瓦製造一筋を貫く「創嘉瓦工業」。いぶし瓦製造を核として歴史を刻み始め、一時は塩焼瓦や陶器瓦の製造に舵を切ったものの、伝統を守り継ぐという使命感のもと、1979(昭和54)年からは再びいぶし瓦製造に特化。日本の経済成長に伴う高級志向や付加価値のあるものに対する感度の高まりなどを受け、いぶし瓦への需要が拡大しつつあったという時代背景、さらには高品質ないぶし瓦製造を可能にする設備面などの技術革新も追い風となり、日本の建築美を支えるいぶし瓦メーカーとしてその地位を確立しました。

いぶし瓦とは、釉薬を使わず高温で焼き締めた後、空気を完全に遮断して炭素を含む燃料を投入し、蒸し焼き状態にする「燻化」という工程を経た瓦のこと。「燻化」によって生み出される独特の色合いや質感は、日本の瓦屋根の風景を象徴する優雅さと風格を感じさせます。

「創嘉瓦工業」の4代目社長・石原史也さんは「いぶし瓦は天然素材100%ですので、素材である土の状態や経年変化の具合などがその都度異なり、いつもと同じように作っても必ず良い燻しの色ができるとは限りません。工業製品でありながらも、工芸品のように一つひとつに個性が表出するいぶし瓦製造において、いかに安定した美しさを生み出し続けるかということは至難の業。均整のとれた商品を供給するために、代々心血を注ぎ続けているのです」とその難しさを語ります。いぶし瓦特有の奥ゆかしく気品に満ちた銀色は、先人から連なるチャレンジと努力の賜物なのです。

現在は、経験値の積み重ねやデータの蓄積、設備の進化などによって安定したいぶし瓦の製造が可能になったものの「今なお、品質のチェックにおいては機械任せにはできないところがあります」と話す石原社長。狙い通りの理想の色合いのいぶし瓦をお客様に届けるためには、熟練の社員らの目と感覚が最終的な砦となっているそうです。

「原材料である粘土は天然資源ですから、たとえ数値上の成分が同じ粘土を仕入れたとしても、毎回状態は異なります。製造工程において機械の設定数値を確認するだけでなく、土の硬さや性質などを考慮しながら燻しをかけるタイミングや時間を微調整するなど、細やかな調整が求められます」と石原社長。その言葉の端端から、繊細ないぶし瓦と向き合い続ける並々ならぬ苦労が滲みます。

 

「創嘉瓦工業」の端正ないぶし瓦は、愛知県半田市の「ミツカンミュージアム」や京都の「京都御所清涼殿」、皇居内の警備施設をはじめ日本や地域を代表する様々な建築物に重用されています。

美しさ、品質の安定性、耐久性、施工性の高さ。あらゆる面で「創嘉瓦工業」の評価を高め、優位性を保っている背景には、厳しい検品や選別工程が欠かせません。「例えば品質の面では、施工する方によって好みや相性の良さが異なる場合があります。ある業者にとっては施工しやすい瓦であっても、別の業者にとっては施工しにくい瓦と正反対の評価をされることもあります。建物の特性や依頼主の傾向など、あらゆることを考慮しながら厳選した瓦を納品することも当社のこだわりです」と石原社長。

瓦の魅力については「瓦は一般住宅から神社仏閣、文化財など多様な場で活用されています。1400年も前から今日まで続いているという伝統こそが、我々日本の建築文化に不可欠な物であるという証です」と話します。自社の瓦が採用された建物の見学ツアーを企画したり、施行中の建物の現場を訪れて施工業者と話す機会を設けたりと、作り手である社員のモチベーションを高めることにも積極的に取り組む石原社長。瓦文化を次世代へと継承していくための工夫でもあるのです。

 

「創嘉瓦工業」の技術力の高さは、新商品の開発にも生かされています。軽い瓦を求める声に応え、独自の研究と製法によって生み出された軽量のいぶし瓦は同社を代表するヒット商品に。石原社長曰く「粘土を材料としている以上、耐荷重を十分に確保するためには、単純に薄くするだけではいけません。薄くしても規定を優に上回る頑強さ、変わることのない性能を保つための製法にたどりつきました」。従来の商品に比べて1割以上の軽量化を実現し、特許を取得しました。

また、古典的なイメージの強いいぶし瓦ですが、同社の瓦はアパレルショップの内装やコーヒーショップの外壁などトレンドを彩るシーンにも取り入れられ、注目を集めています。「屋根以外にも、塀や外壁、インテリアや床など目線に近い所で瓦が使われるのはうれしいこと。瓦に馴染みの薄い世代の方の目に触れる機会を、もっともっと増やしていきたい」。

さらに海外のショップや住宅での施工実績も重ねる同社。「日本の建築物の素晴らしさというのは、傷んだ部分を補修して継ぎ足して再度組んで…と半永久的に受け継いでいけるところ。瓦葺きの屋根も、基準に則ってしっかりと施工し、定期的に点検をすることで何世代にもわたって継承することができる。使えなくなった瓦は粉砕して再利用することもできますし、粘土が原料ですので自然環境にも優しい。これほどサスティナビリティな建材は他に思い当たりません」。

「そして、何より日本古来の景観を守ためにも瓦文化を絶やしてはいけない。今後、観光立国として海外から大勢の誘客を目指すのであれば、観光客の方が描く日本らしい風景を守ることが大切。そのためにも、いぶし瓦をしっかりと後世につなげていくのが私たちの役目です」。石原社長の言葉に、日本文化の担い手としての強い決意を感じました。

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