三州瓦を支える人たち vol.8(デニック)

「役瓦」製造で培った技術力と発想力を基に、瓦の新たな魅力を開花させる

屋根一面に敷かれる一般的な桟瓦に対し、軒瓦、袖瓦など特殊な部分を葺くための「役瓦」を中心に製造する「デニック」。魔除けや商売繁盛などの願いを込めた鬼瓦や、家紋を刻んだ軒先の瓦などが象徴的です。

「デニック」のルーツは1973(昭和48)年設立の「大でんちこ鬼白地(現在の大でんちこ鬼瓦)」。施釉、焼成する前段階にあたる瓦形状にした粘土の生地を製造する会社として商いをスタートし、その後1993(平成5)年、粘土生地を焼成し製品となった役瓦を製造する「デニック」が誕生しました。

幼い頃から、両親が瓦製造に励む背中を見て育ったという2代目社長の神谷貴光さんは「毎晩遅くまで夫婦で仕事をしていて、子どもはほったらかしにされていましたね(笑)。大変そうな仕事だなという印象しかなく、特別楽しそうとかやってみたいという気持ちはありませんでした」と当時を振り返ります。

 

 

「デニック」が主体となってからは、大手のメーカーが手掛けにくい小ロットの役瓦や他社が敬遠しがちな複雑なデザインの瓦、特殊な製品などを一手に請け負っています。その技術力に対する評価は、錚々たる実績からも明らかです。東京都にある「九段会館」や兵庫県「念佛宗 三寶山 無量壽寺」、台湾「国立中正紀念堂」といった名立たる建物の屋根瓦を、瓦メーカーからの依頼のもと、屋根の役瓦の一部を請け負うなど縁の下の力持ちとして協力しています。

「リクエストが細かくハードルが高い要望が多いので、苦労した思い出もたくさんありますが、だからこそ、無事に納品できて施工された時の感慨もひとしおです。歴史に名を刻むような建物を手掛けることは、社員たちの誇りにもつながっていると思います」と神谷社長。「私たちが担うのは、屋根の一面の中でもほんの一部分です。でも、その部品がないと建物が成り立たないという自負を持って誠心誠意つくっています」という言葉に、役瓦づくりに対する誇りを感じます。

 

人手不足や従事者の高齢化などが懸念される瓦業界の中で、「デニック」の平均年齢は35歳前後。長年携わるベテランと20代、30代のフレッシュなスタッフがバランス良く融合しながら、職人としての心や技を継承しています。

「もともとのスタッフが友人や知人を誘ってくれて入社につながるなど、人と人の縁が今につながっています。年齢やキャリアの垣根なく、不安な点や知りたいことがあれば互いにコミュニケーションを取りながら解決するなど、風通しは良いのではないでしょうか」と神谷社長が話す通り、和気藹々とした雰囲気で活気に満ちた職場。良好な人間関係や働く環境が、質の高い製品づくりにも反映されているようです。

「社歴の長さに関係なく“いいものを作りたい”という思いはみんな同じ。お客様の期待に応えられるよう、満足度の高い商品を納品したいという一心で、一つひとつの工程を大切にしながら丁寧に作り上げています」。

 

そんな従業員の思いが少しでも報われればと「お客様からかけていただいた感謝や喜びの声、お褒めの言葉は逐一従業員に伝えています」と話す神谷社長。社員の意欲向上にも努めています。

 

 

「三州瓦の身上は耐久性、長寿命など機能面もさることながら、日本の風景を象徴する品格のある美しさ。瓦葺きの屋根に陽光が当たると、季節や時間ごとに違った表情を見せる。その趣深さをもっと多くの人に感じてほしいですね」と穏やかな表情で話す神谷社長。「中でも三州瓦は、クオリティの高さはもちろんのこと、充実したラインナップも強みの一つ。伝統的な和瓦や役瓦から、現代の住宅ニーズに適ったスマートな平板瓦まで幅広い選択肢があります。用途や住宅のスタイルに合わせて、多彩な瓦の魅力を取り入れてほしい」と語ってくださいました。

「デニック」では、現代そして未来へと瓦文化を継いでいくために、屋根材としてのみならず壁材としての瓦の可能性にも着目。「一般的な外壁は大半の場合、10年に1度くらいを目安に塗り直しなど大幅なメンテナンスを検討する必要がありますが、屋根同様、瓦を使った壁であればほとんどメンテナンスフリー。屋根と統一感があり、日本らしい風格のある家づくりが実現できると思います」と神谷社長。

さらに、社長の弟にあたる専務の神谷雄平さんを中心に、瓦の製造技術を使った小物の製造開発、販売、SNSでの発信にも積極的。瓦技術を使ったカラフルなミニチュアタイルは、ガーデニング小物、ドールハウスやジオラマのパーツ、箸置き、インテリアなど様々な用途に活用できると話題になっています。

「伝統的な瓦屋根の魅力とあわせて、“これも瓦の素材なんだ!”という驚きや新しい発見を与えられるような、インパクトのある形で若い人にも訴えていきたい」と話す専務の雄平さん。固定概念にとらわれない自由な発想により、新たな表情を見せる多彩な瓦に親しむことで、屋根材としての瓦の魅力を再発見するきっかけにもなりそうです。

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