三州瓦を支える人たち vol.7(宮脇グレイズ)

vol.7

陶器瓦の機能性と多彩な表情を生む、釉薬とガラスフリットを開発・製造

1967(昭和42)年、高浜市にて創業した「宮脇グレイズ工業」は、瓦を焼く際に表面に施す釉薬やガラスフリットの開発・製造を手掛けるメーカーです。

2代目社長・宮脇雅裕さんによると「私が父の後を継いで社長になった30年ほど前は、三州瓦のメーカーに釉薬を卸している会社が8社前後あったのですが、今は半数以下になってしまいました。ニッチな産業ではありますが、決して絶えることのない業種だと思っています」。その言葉の端々からは、瓦用の釉薬という特殊な技術を確立し、瓦産業を支えてきた技術者らへの敬意と、その伝統を継承して発展させてきた自信が伝わってきます。

宮脇さんは瓦用釉薬の特異性について「陶器瓦を焼く場合、窯の上下や内側・外側によって焼成温度や冷却時間に差異が生じるため、窯の場所によって貫入が入りやすかったり、発色が異なったりします。また瓦は窯に入れる際、立てて並べるため釉薬の定着性が求められる。さらに釉薬は、焼成の段階で色種によってガスの発生量や種類が異なるという難しさもあります。そういったあらゆる条件を考慮しながら、常に安定した焼き上がりを実現するためには、経験と技に裏付けられた緻密な調合を要するのです」と解説をしてくださいました。

瓦における釉薬の役割は主に3つ。1つは、釉薬によって自在に色を付けることができるという装飾性。2つ目は防水と防汚です。素焼き状態では雨水などを吸ってしまうため、施釉することで水の浸透や汚れを防ぎます。3つ目は強度を高めること。耐久性に優れた釉薬瓦は、長い歳月を経ても美しい状態を保つことができます。

「機能面での役割もさることながら、日本の景観をつくる瓦特有の趣深さを演出できる点も、釉薬の大切な役割だと思います」と言葉を継ぐ宮脇さん。中でも、日本の瓦屋根を象徴する定番色として知られるのが、銀黒と呼ばれる釉薬です。これは、焼成後にじっくり冷却する瓦特有の製造工程だからこそ生まれる金属結晶に着目した釉薬で、キラキラとした輝きが高級感を演出します。「昭和50年代に父が開発して特許を取得したのですが、その後全国的に人気を博しました。今なお、和瓦にも平板瓦にも多く採用されている比類なきロングセラーです」

宮脇グレイズ工業が瓦用の釉薬開発・製造を通じて培ってきたノウハウと技術は、大手ハウスメーカーの外壁や外構材にも採用されるなど、高い要求に応え得る技術として注目度が高まっています。

さらに、先代から連綿と続く、新たなことを生み出す創造力やチャレンジ精神を大切にするというDNAにより、他業種との共同開発などにも意欲的です。ベルトコンベアのローラー部分に釉薬を施すことで耐摩耗性、耐腐食性を向上させるというコーティング剤、製鉄所などで使われる耐火物の表面を守るためにガラスフリットの原料を活用した酸化防止剤など新たな開発にも着手。各方面とのプロジェクトが進んでいます。

もの作りにかける想いについて宮脇さんは「当社の技術や商品を評価し、買っていただけるお客様の期待に応え続けること。それが一番のモチベーションです」と語ってくださいました。

新規事業にも積極的に携わる一方で、開発力・技術力の礎となっている屋根瓦への熱い思いを語ってくださった宮脇さん。

「一番大切なことは、瓦の魅力をいかに多くの人に伝え、日本固有の文化として守っていくかだと思います。例えば変色しやすい塗料仕上げの場合、新築から10年後には足場を組んで塗り替えをしなくてはいけない可能性もあります。安価な屋根材を使えば、10年後には大々的なリフォームのために出費がかさむことも考えられます。その点、耐久性に優れ、塗り替えのコストもいらないメンテナンスフリーの陶器瓦は、屋根材として優等生だと思います。機能面も意匠性も含め、日本の家屋にとってこの上ない屋根材ではないでしょうか」

自然災害時のニュース映像の影響などにより、瓦屋根が敬遠されがちな現状については「瓦自体の性能や施工技術も進化していますし、現在採用されているガイドライン工法に則った瓦屋根であれば、地震や台風に対する耐震性や耐風性も心配いりません。“住宅は代々引き継いでいくもの”という建築文化を日本に残すためにも、瓦屋根の伝統文化は必要不可欠だと思います」と話す宮脇さん。その言葉からは、先人たちが遺してくれた三州瓦という文化、産業をこれからも守っていくという使命感が伝わってくるようでした。

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