三州瓦を支える人たち vol.4(神仲)

vol.4

緻密な技巧と新しい発想で、記憶に刻まれる瓦を生む

大正時代に創業し、手仕事による鬼瓦づくりをスタートした「神仲」。昭和40年代になると、金型によるプレス成形を手がけ、鬼瓦の大量生産体制をいち早く確立しました。

さらに平成時代に入ると、職人らの熟練した技、複雑な意匠を可能にする金型技術、焼成技術などを生かし、役瓦づくりに特化するなど独自性を発揮しています。

役瓦とは、役物とも呼ばれる特殊な瓦のこと。屋根の斜面いっぱいに使われる一般的な桟瓦さんがわらに対し、軒先に施され、家紋などが刻まれることもある軒瓦、建物の妻に付く袖瓦など、特殊な部分を葺く瓦を指します。

棟の端に葺き、防水の役割を果たすとともに、魔除けや火事防止、天災などの厄避け、商売繁盛など、さまざまな願いを込めて飾られる鬼瓦も役瓦に含まれます。

役瓦の製造工程のうち「技術的な工程も去ることながら、最も神経を使うのは、乾燥の工程です」と話すのは、専務取締役の神谷琢さん。役瓦は、桟瓦と異なり、凹凸があり、生地の厚みにバラつきがあります。そのため、乾燥の度合いに差が生じやすく、焼き上がりの際に亀裂などのリスクが高くなってしまうそうです。

割れや焼きむらを抑えるために、季節により乾燥具合を見極めて目をかけ、向きを変えるなど、一際手がかかり、研ぎ澄まされた感覚を要するのも役瓦の特徴なのです。

鬼瓦、役瓦作りを通して培ってきた細かい手作業、複雑な成形や緻密な調整を必要とする金型作りや焼成の技術。こういった伝統は、先人らが残した文化的価値の高い建物や神社仏閣の復元などにも重用されています。

例えば、2020(令和2)年に復元整備を終えた水戸城の大手門では、本葺き瓦の製造を担当。京都御所の復元にあたっては、板塀瓦と呼ばれる70cmもある特注の大きな瓦をプレス成形にて行いました。

神谷さんは「歴史的な建造物を担うことは誇らしいことですが、どのような物件の瓦であろうとも、ただひたすらに、常に良い物を作るという気持ちに変わりはありません。気負うことなく、淡々と良い物を作り続けています」と、作り手らの思いを代弁してくださいました。

数々の施工例の中で、神谷さんが最も印象深い施工例として挙げたのは、兵庫県にある旧甲子園ホテル。現在の武庫川女子大学 甲子園会館です。

「1枚ずつ風合いが異なる特殊な瓦でした。その趣を忠実に復元するために、数千枚に及ぶ瓦、1枚1枚について霧吹きや拭き取りなど手を施すことで、色のまだらを演出。表情豊かな瓦を復元しました」。

神谷さんが思う、瓦屋根の魅力についてうかがいました。

「他の屋根材と比べた時、四季があり、近年は多湿傾向にある日本の気候の中で発揮される最大の利点は、調湿機能ではないでしょうか。

瓦屋根の場合、空気層ができることで余分な湿気を逃し、外気温との差を和らげてくれる。いわば、家にダウンジャケットを着せているような状態です。この調湿・調温効果は、結果的に家の躯体を長持ちさせることにもつながります」。

このような瓦の良さを、現代の暮らしにも取り入れ、広く知ってもらおうと同社ではさまざまな取り組みを行っています。その一つが、太陽光パネル取り付け用の役瓦です。再生可能エネルギーへの転換が叫ばれ始めるのと同時に、注目度が高まった太陽光パネル。大手パネルメーカーごとにレールとのジョイント部材の仕様を変えるなど、各社の太陽光パネルに対応した瓦の開発、製造を実現しました。

また屋根だけでなく、暮らしの中で瓦に触れる機会を増やし、記憶に刻まれる存在であってほしいと、瓦の技術を応用した傘立てやガーデニング部材にも取り組みを広げています。

「他の素材にはない温もり感や、柔らかい印象は瓦ならでは。職人の手技を生かしたオンリーワンの製品を作れる当社の強みを生かし、住まいのシンボルになるようなアイテムを作っていきたい」と神谷さん。

「先人が残してくれた技術、日本の文化を残すために、瓦を作り続けることが使命」と話す神谷さん。屋根材以外の新たな瓦商品として、樹木葬に着想を得て、お墓で使う土管「はから」を新たに考案しました。いぶし銀をはじめ、新銀、ブラウン、紫など全8色をリリースし、2022年2月から発売予定です。

「数十年後、100年後、屋根の保守をする職人たちが、“昔の職人はいい瓦を作っていたんだな”と思うような瓦を作っていきたい」。

「神仲」では、古き伝統と、新しい暮らしの接点を大切にしながら、瓦文化を伝え続けています。

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